奈良はイチゴの名産地?
イチゴは日本国内で多く生産され人気の高い果物です。
今は全国的に有名というわけではありませんが、以前は奈良県もイチゴの産地として名の知れた土地でした。
そんな奈良のイチゴ栽培について、現在そしてこれからにもスポットを当てながら解説していきます。
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担当者:古川真史
【奈良に住んで20年】奈良を誰よりも愛し続ける奈良ヲタク。人気グルメから人口や歴史、鹿の生息数。何でも答えます。最近は大仏プリン推し。
イチゴで有名なのは栃木や福岡だけれど…
とちおとめ・あまおう・ゆうべに・紅ほっぺ・ゆめのか。
スーパーやスイーツ店などで冬から春にかけて見かける名前――そう、イチゴの品種名です。
現在、日本国内のイチゴの生産においては栃木県(とちおとめ)と福岡県(あまおう)が二大産地として知られており、全国の生産量のおよそ25%をこの2県が占めています。
次いで生産量が多い順から熊本県(ゆうべに)、静岡県(紅ほっぺ)、長崎県(ゆめのか)となっています。
いっぽう、今でこそ栽培面積や収穫量は減少しておりますが、奈良県もその昔イチゴの栽培が非常にさかんな土地でした。
現在でも新たな品種が開発されるなど、県の顔となる農作物のひとつとして県内ほぼ全域で栽培が続けられています。
今回はそんなイチゴの産地としての奈良県について見ていくことにしましょう。
奈良はかつてイチゴの一大産地だった
奈良県でイチゴの栽培が最も盛んだったのは1960年~1970年前後。
戦後間もない1950年には24haしかなかったイチゴ畑でしたが、その後5年間で急増。
1955年には約16倍の397haにまで面積を拡大していきました。
そして1972年のピーク時にはなんと869haという広大な土地でイチゴの栽培が行われていました。
1962年から1980年まで18年間もの間、全国第3位の生産量を誇っていたということで、名実ともに奈良県は日本を代表するイチゴの産地のひとつだったわけです。
当時おもに生産されていたのは「宝交早生(ほうこうわせ)」という品種で、病気に強く果肉がやわらかくて甘いので、今でも人気のある品種です。
『大和の農業技術発達史』という本によると、当時は山の上から大和盆地を眺めると一面にイチゴ栽培のビニールハウスが見られるほどだったそうで、日没が過ぎるとビニールハウスに電照栽培の明かりがともり、美しい夜景となっていたようです。
「クリスマスケーキにイチゴ」は奈良の功績!?
さて、電照栽培という言葉がでてきました。
これは夜の間にも光を当てることで作物の成長を促す栽培方法で、おもに日照時間の短い冬の時期に行われます。
この電照栽培にまつわるエピソードをひとつご紹介しましょう。
クリスマスに食べられるケーキについてのお話です。
日本において「クリスマスケーキ」と言うと、多くの方がまずイメージされるのはたっぷりの生クリームにイチゴの乗ったイチゴショートケーキだと思います。
実際、こんにちクリスマスシーズンになると、あちこちのお店でクリスマスケーキとしてイチゴショートが売り出されますよね。
ですが、実は1970年ごろまで、クリスマスのケーキにはイチゴは乗っていなかったのです。
なぜならイチゴは元々春がメインシーズンの果物。まれに早く花が咲いて冬に実をつけることもありましたが、クリスマスケーキに使えるほど安定して収穫できるものではありませんでした。
冬の時期にもイチゴを安定して収穫できるようにしたい。
それを可能にしたのがビニールハウスでの栽培、そして電照栽培といった技術革新でした。
電照栽培は以前から菊の栽培などで行われていましたが、それをイチゴに応用した形です。
この研究を1965年頃から中心となって進めたのが、何を隠そう奈良県農業試験場の場長を務められていた藤本幸平さんという方でした。
寒くて日照時間の短い冬の間は成長が止まってしまうイチゴを休眠状態にさせないための技法。
これは奈良県から生まれたものだったのです。
藤本さんが1972年に論文を発表されたことでこの技法が全国に知れわたり、冬でも当たり前にイチゴが収穫できるようになりました。
クリスマス需要のおかげで年明け前に出荷できたイチゴは高値で取引される。
ということで、当時のイチゴ農家の間では「年内にイチゴを株当り3個収穫してハワイへいこう」を合言葉にして積極的な技術導入が進められたそうです。
そうしてイチゴの乗ったクリスマスケーキが一般的になっていったわけですね。
奈良県のイチゴ栽培 現在は?
そんな風にかつて非常に盛んだった奈良県のいちご栽培ですが、現在はと言うとかつてほどの規模ではなく、栽培面積は約117ha(平成22年度調べ)と減少しています。
おもな理由としては生産者の高齢化が挙げられます。
しかしそれでも県を代表する作物として奈良市・天理市・大和郡山市・橿原市・桜井市・生駒郡・田原本町・明日香村・五條市を中心にハウス栽培が行われ、県内や近畿圏内を中心に出荷が行われています。
ジューシーさが魅力の「アスカルビー」や濃厚でフルーティーな「古都華(ことか)」、大きいものは鶏卵ほどのサイズがある「珠姫(たまひめ)」、古都華を元に新たに育てられた「奈乃華(なのか)」といった奈良独自の品種が栽培され、新たな品種の開発も続々と進められていっています。
なかでも「アスカルビー」や「古都華」は富有柿や大和牛などと並ぶ県内のブランド農畜水産物のひとつとして、糖度や大きさ・見た目など厳しい基準をクリアしたものは「奈良県プレミアムセレクト」の名で出荷されます。
また、品種だけでなく栽培方法においても、立った状態で作業が可能な高設栽培が増えているなど新たな試みが近年活発に行われ、若手の生産者も増えてきているということです。
まとめ~奈良のイチゴの過去と未来~
いかがでしたでしょうか。
今回は奈良県におけるイチゴの生産について見ていきました。
かつて奈良が非常にイチゴの栽培のさかんな土地であり、今では当たり前になっている冬場の安定した収穫を可能にするなど、わが国のイチゴ栽培の歴史においても大きな役割を果たしていることがわかりました。
そして現在でも、過去の功績にとらわれるのではなく培ってきたものを活かして、積極的な品種開発やブランド化など新しい流れを生み出そうと努力が続けられていることもわかりました。
今後どのように進化していくのか、奈良のイチゴの未来が楽しみですね。
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担当者:古川真史
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